1. 序論:脅威のパラダイムシフト
YouTube動画2025/11/23外国勢力は日本を弱体化させようとする時、必ず決まって「右側」を操作する
情報操作という脅威は、今、静かにその本質を変えつつあります。かつて、この脅威の主役は国家であり、その活動は地政学的な目的を持つ組織的「工作」として認識されてきました。しかし、我々の最新の分析は、情報操作が国家主導の枠組みを離れ、グローバルな資本主義の論理によって駆動される、分散的かつ自律的な「ビジネス」へと変質したという衝撃的な事実を明らかにしています。この新しい脅威は、特定の敵を持たず、純粋な経済合理性に基づいて自己増殖するため、企業の意思決定者やリスク管理者にとって、もはや看過できない予測不能なリスク環境を生み出しています。
この脅威のパラダイムシフトがもたらす影響は、従来の安全保障の常識を根底から覆すほど深刻です。その特徴は、以下の3点に集約されます。
- 対処不可能性: 攻撃主体が国家ではなく、生活のために収益を求める不特定多数の個人であるため、敵が不明確であり、従来の外交的・軍事的な防衛策や対抗措置が一切通用しません。
- 言論空間の崩壊: 政治的意図ではなく、純粋な収益目的で生み出される膨大なノイズ(偽情報や扇動的なコンテンツ)が健全な議論を駆逐し、社会の意思決定の基盤となる世論形成プロセスを根底から脅かします。
- 予測不能なリスク: 特定の国家による弱体化の意図がなくとも、最も騙されやすい層を標的とする収益化モデルが自律的に機能することで、結果的に社会の分断を深め、国力を内側から蝕むという現象が自然発生的に引き起こされます。
本稿では、この「資本主義が生み出した新たな亡霊」とも言うべき脅威の実態を、具体的な分析に基づいて解き明かしていきます。まずは、我々がこれまで「敵」と認識してきた国家主導の情報工作の実態を再確認し、その上で、この古典的な脅威がいかにして、より捉えどころのない「亡霊」へと変質したのかを論じていく。
2. 従来型脅威の輪郭:国家主導による情報工作の実態
我々が現在直面している新しい脅威の特異性を理解するためには、まずその前提として、これまで認識されてきた「国家主導の情報工作」がどのようなものであったかを明確に定義する必要があります。これは、国家が安全保障上の目的を達成するために、敵対国の世論や政治プロセスに影響を与えることを目的とした、組織的かつ戦略的な活動を指します。
菅野氏の分析に基づき、この従来型の情報工作の具体的な特徴を分析すると、その構造は極めて明確です。
工作の主体と対象国
- 工作国: 主たる行為国として、ロシア、中国、そしてアメリカが挙げられます。これらの国々は、自国の利益を最大化するために、他国の情報空間に積極的に介入してきました。
- 標的国: 工作の標的は広範囲に及び、アメリカ、イギリス、リトアニア、ポーランド、フランス、ドイツ、日本を含む多数の国々でその活動が確認されています。
工作の共通戦術と目的
- 戦術: 各国が展開する情報工作には、驚くべき共通戦術が存在します。それは、工作対象国の**「右側」(愛国的な層)を意図的に操作・応援する**という手法です。愛国心に訴えかけ、感情的な反応を引き出すことで、社会の分断を煽り、内側から混乱を生み出すことが極めて効果的であると認識されています。
- 目的: この戦術の最終目的は、対象国の国力を弱体化させ、GDPを低下させることです。敵性国家は、愛国心に訴えやすい層、すなわち菅野氏の言葉を借りれば「国旗を振り、国歌を歌い、涙を流す」ような人々を意図的に勢いづかせることが、結果的にその国のGDPを低下させる最も効率的な手段だと見抜いているのです。これは感情論ではなく、冷徹な戦略的計算に基づいています。
実行手段
- この工作は、単なるプロパガンダの発信に留まりません。右派の著名なインフルエンサーが、実際には中国やロシアの**「エージェント」**として活動していたという事例も報告されており、背後には国家レベルでの高度な組織的活動が存在することを示唆しています。
このように、従来型の脅威は、主体(国家)、目的(国力弱体化)、手段(エージェント)が明確でした。それゆえに、「敵」を特定し、国家として交渉や対抗措置を講じるという対処の仕様が存在しました。しかし、次章で論じるように、この明確な敵の姿は今や霧散し、我々は全く異なる性質の脅威に直面しているのです。
3. 脅威の変質:「ビジネス」として拡散する情報操作
情報操作の脅威は、国家間の政治闘争という古典的な舞台から、資本主義の論理によって駆動されるグローバルな経済活動へと、その本質を根本的に変えました。このパラダイムシフトの発見は、我々の従来の脅威認識が「甘かった」ことを認めざるを得ないほど衝撃的なものでした。もはや脅威の主役は、特定の国家の意思ではなく、個人の収益最大化という普遍的な動機なのです。
この変質の決定的な証拠は、X(旧Twitter)がアカウントの所在地情報を開示し始めたことで、図らずも明らかになりました。
- 分析対象: アメリカ国内で強い影響力を持つ、著名なトランプ支持者(いわゆるマガ・アカウント)群。
- 驚くべき発見: これら愛国的なメッセージを発信するアカウントの多くが、政治的文脈を全く共有しないアフリカ、中東、インドネシアといった国々から操作されていたという事実が判明したのです。
これらのアカウントを運用する活動主体は、我々がこれまで想定してきた「工作員」とは全く異なる存在でした。
- 主体: 彼らはロシアや中国の工作員ではありません。特定の国家の指令を受けて活動しているわけではないのです。
- 動機: 彼らの活動を駆動しているのは、政治的な意図やイデオロギーではなく、純粋に**「儲かるから」という自己の収益最適化を目的としたビジネス**に他なりません。ソースが指摘するように、彼らはただ「労力の少ない形で売上を上げようとしているだけ」なのです。
この現象の本質を理解するために、菅野氏が用いられている以下の比喩は極めて有効です。
- 「内職」としての情報操作: この活動は、昭和時代の日本で見られた「割り箸袋入れ」や「造花作り」といった家内手工業的な副業に例えられます。インターネットを通じて、誰でも参入できるグローバルな内職市場が形成されているのです。
- 「小遣い稼ぎ」: また、空き缶を拾って換金する行為のように、彼らは「悪気も何も」なく、日々の生活費を稼ぐための自発的かつ分散的な活動として情報操作を行っています。
このように、情報操作は特定の敵による意図的な攻撃ではなく、経済合理性に基づいて無数の個人が参加する集合的な経済活動へと変貌を遂げました。この構造変化こそが、本脅威を極めて根深く、対処困難なものにしているのです。次のセクションでは、この「ビジネス」が成立する具体的なメカニズムについて詳述します。
4. 新たな脅威のメカニズム:「アホ釣り堀」のレッドオーシャン化
なぜ、政治的文脈を共有しない国々の個人が、特定の国の愛国者を装って収益を上げることができるのでしょうか。その背景には、極めて経済合理的でありながら、社会にとっては破壊的なメカニズムが存在します。このメカニズムは、プラットフォームが生み出すインプレッション(表示回数)経済の中で、最も効率的に収益を上げられる層を標的にすることで、意図せずして言論空間を歪めています。
この収益化の仕組みは、菅野氏が提示されている「アホ釣り堀」という痛烈な比喩によって、その本質が的確に表現されています。
- 標的となる層: なぜ「右側」(各国の愛国者やトランプ支持者など)が標的になるのでしょうか。その理由は、菅野氏の直接的な分析によれば、彼らが**「アホ」が多く、「騙しやすい」**ためです。自己愛が強く、感情的な訴えに脆弱なこの層は、扇動的なコンテンツに即座に反応し、大量の「いいね」やリポストを生み出します。これにより、投稿者は最小限の労力で最大のインプレッションを稼ぐことができ、彼らはまさに広告収益を生み出す格好の「釣り堀」となっているのです。そしてこの「釣り堀」にいる魚は、どの国の愛国者であれ、同様の性質を持っていることが明らかになっています。
- 具体例: この現象は特定の国に限った話ではありません。日本においても、「インプレゾンビ」と呼ばれるインプレッション稼ぎを目的としたアカウント群が、遠くナイジェリアなどから操作されている事例が確認されています。これは、このビジネスモデルがグローバルに普遍的なものであることを証明しています。
- 活動の実態: 彼らの欺瞞性は、その活動内容に端的に表れています。愛国や伝統といった高尚なテーマを語りながら、実際には**「日本語さえ読めていない」**状態で、機械的にコンテンツを生成・拡散しているのです。しかし、「釣り堀」の魚たちにとっては、メッセージの真偽よりも感情的な満足が優先されるため、このモデルは問題なく成立します。
この「アホ釣り堀」は、あまりに効率的に収益を上げられるため、今や世界中から金儲けをしたい人々が集まる**「文字通りレッドオーシャン」**、すなわち過当競争市場と化しています。誰もが簡単に参入できるグローバルな内職市場は、最も騙されやすい人々を食い物にすることで、巨大な経済圏を形成しているのです。
この純粋な収益化メカニズムが、結果として社会にどのような破壊的な影響を及ぼすのか。次のセクションでは、従来型の脅威との比較を通じて、その深刻度を明らかにします。
5. なぜ新時代の脅威はより深刻なのか:対処不可能な構造的問題
「ビジネスとしての情報操作」は、なぜ従来の国家主導の工作よりも深刻で、対処が困難な脅威なのでしょうか。その答えは、両者の構造的な違いにあります。主体、動機、構造が根本的に異なることで、脅威の性質そのものが変容し、我々の社会はこれまでの安全保障の枠組みでは対応できない、全く新しい挑戦に直面することになりました。
従来型脅威と新型脅威の違いは、以下の比較表によって明確に理解できます。
| 比較項目 | 従来型脅威(国家主導) | 新型脅威(資本主義駆動) |
| 主体 | 国家、情報機関、エージェント | 不特定多数の個人(内職・副業) |
| 動機 | 政治的・軍事的(国家の弱体化) | 経済的(個人の収益最大化) |
| 構造 | 中央集権的・組織的 | 分散的・自律的 |
| 対処法 | 国家間の交渉、工作員の逮捕 | 「戦いようがない」 |
この新型脅威が「戦いようがない」理由は、その構造に根差した根源的な問題にあります。
- 敵の不在: 脅威の主体は、悪意ある工作員ではなく、貧しい国々で日々の生活費を稼ぐために「内職」に励む普通の人々です。彼らの活動に対して、主権国家として「その副業をやめろ」と介入することは事実上不可能です。我々は、特定の国家や組織という明確な「敵」と対峙しているわけではないのです。
- 対策の回避: たとえプラットフォームが所在地情報を開示するなどの対策を講じても、実行者たちは即座に対応します。彼らは収益を守るため、プロキシ(Proxy)やVPNといった技術を駆使して身元を隠すライフハックを共有し、追跡を極めて困難にするでしょう。これは、終わりのない「いたちごっこ」を生むだけです。
この対処不可能性がもたらす最悪の帰結は、**「言論が根底から死んでしまう」**という危機です。社会に「SNSで声が大きいアカウントは、外国の小遣い稼ぎに雇われた人々に応援されているに過ぎない」という認識が広まれば、誰もが他者の意見を信じなくなり、健全な議論や熟議に基づく世論形成は不可能になります。そこには、収益目的のノイズと、それに対する冷笑的な不信感だけが残り、民主主義社会の基盤そのものが崩壊しかねません。
このように、情報操作は我々が対処可能な「問題」から、社会システムが生み出す対処不能な「副作用」へと変質しました。
6. 結論:資本主義が生み出した「防ぎようがない」危機への警鐘
本稿で論じてきたように、情報操作の主役は、国家からグローバル資本主義が生み出した「副作用」へと劇的に移り変わりました。これは、地政学的な意図を持つ明確な敵との戦いではなく、経済合理性に基づいて自律的に拡散する、姿なき脅威との対峙を意味します。現代社会は、これまで経験したことのない、新たな構造的リスクに直面しているのです。
本稿で明らかになった主要な論点は、以下の通りです。
- 脅威の本質の変容: 情報操作は、国家による意図的な**「工作」から、個人の収益最大化という動機に基づく、グローバル経済の「システムの副作用」**へとその本質を変えた。
- 「アホ釣り堀」の危険性: 最も騙されやすく感情的な層を標的とした収益化モデルは、特定の意図がなくとも、結果的に社会の分断を煽り、対象国の世論を混乱させ、国力を内側から弱体化させるという、極めて危険な自動装置として機能しています。
- 対処法の不在: この新しい脅威には、スパイやテロリストのような明確な敵が存在しません。生活のために活動する不特定多数の個人に対して、従来の安全保障の枠組みは全く無力であり、これはまさに「防ぎようがない」危機と言えます。
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