なぜ対立する?「積極財政」vs「緊縮財政」〜菅野完氏の歴史観から読み解く根本的な違い〜 | 菅野完 朝刊チェック 文字起こし
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なぜ対立する?「積極財政」vs「緊縮財政」〜菅野完氏の歴史観から読み解く根本的な違い〜

2025/12/8国会リアルタイム解説!2025年12月8日 衆院本会議 財政演説に対する代表質問 安住淳

はじめに:お金だけの話ではない、財政を巡る根深い対立

「政府はもっとお金を使うべきだ」という積極財政。 「政府は無駄遣いをやめて借金を減らすべきだ」という緊縮財政。

ニュースでよく耳にするこの二つの考え方は、なぜこれほどまでに対立するのでしょうか。この対立は、単なる経済政策の選択という技術的な話に留まりません。実はその根底には、「社会はどうあるべきか」「私たちは問題をどう捉えるべきか」という、人々の心の持ちようにまで関わる深い思想的な対立が横たわっています。

本稿では、菅野完氏のユニークな視点、特に「緊縮財政が『自己責任論』を生み出し、それが歴史的に日本社会に大きな影響を与えてきた」という分析を軸に、この対立の根源を解き明かしていきます。

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1. 菅野完氏が「緊縮財政」に反対する本当の理由:自己責任社会の誕生

菅野氏の議論の中心には、単なる経済指標ではない、より根深い問題意識があります。

菅野氏が緊縮財政に反対する最大の理由は、「緊縮財政が、貧困や失敗を個人のせいにする『自己責任論』を社会に植え付けた元凶だからだ」と考えているからです。

彼によれば、「自己責任論」は以下の歴史的プロセスを経て、日本社会に定着しました。

  • ステップ1:松方デフレという出発点 明治時代、大蔵卿の松方正義が行った極端な緊縮財政と増税は、深刻なデフレ(モノの値段が下がり続ける不況)と貧困を引き起こしました。これにより、人々が助け合って暮らしていた従来の村落共同体は破壊されてしまいました。
  • ステップ2:政府による「心の教育」 社会に広がる不満を抑え込むため、政府は教育を利用しました。二宮金次郎の銅像に象徴されるように、「勤勉に働き、倹約し、親孝行をすれば必ず成功する」という「通俗道徳」を国民に徹底的に教え込んだのです。
  • ステップ3:「自己責任論」の定着 その結果、人々は貧困に陥っても「社会の仕組みや政治が悪いからだ」とは考えなくなりました。代わりに「自分が貧しいのは、本人の努力が足りないからだ」「怠けているからだ」と、自分自身を責める文化が形成されていったのです。

このようにして生まれた「自己責任で耐え忍ぶ国民性」が、さらに大きな悲劇へと繋がっていく、と菅野氏は指摘します。

2. 菅野完氏のロジック:マクロ経済方程式(Y = C + I + G …)

一方、菅野氏が「積極財政(反緊縮)」を支持する理論的根拠として挙げたのが、経済学の教科書に出てくるGDPの方程式です。

方程式の意味: GDP=民間消費(C)+民間投資(I)+政府支出(G)+純輸出(XM)

Gを減らすことの無意味さ: 菅野氏はこの式を引き合いに出し、GDP(国内総生産)を構成する要素の一つである**「政府支出(G)」**を減らすこと(緊縮財政)は、そのままGDPを減らすことに直結するため無意味であると主張しています。

目的の違い: 菅野氏がこの式を持ち出すのは、政府支出を増やしてデフレ(不況)を脱却し、国民の貧困(自己責任論の蔓延)を防ぐためです。しかし、彼は同時に「無制限な国債発行」には反対しており、政府支出は必要だが、市場の信認を失うようなやり方は国を滅ぼすと警告しています

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2. 「自己責任」の果てにあるもの:戦争への道

緊縮財政が生み出した「自己責任で耐え忍ぶ国民性」は、なぜ戦争という最悪の事態にまで繋がってしまったのでしょうか。

菅野氏の分析によれば、「緊縮財政によって作られた『文句を言わず、自己責任で耐える従順な国民』は、国にとって非常に都合の良い存在となり、結果として日本が『15年戦争』へと突き進む土台となった」のです。

彼はそのメカニズムを、マルクス主義の考え方を用いて説明します。これは、社会の経済的な仕組み(下部構造)が、人々の考え方や文化(上部構造)を決定づける、という分析です。つまり、松方デフレという経済政策が、「自己責任で耐える」という国民の精神性を生み出してしまった、と菅野氏は指摘しているのです。

その結果、「お国のために頑張れ」と言われれば、真面目にそれに従ってしまう国民性が作られ、誰も戦争を止めることができなかった、と彼は結論づけます。

したがって、菅野氏が積極財政を支持するのは、この「社会の問題を個人の心の問題にすり替える『緊縮財政と自己責任論のセット』」という歴史的な連鎖を断ち切るためなのです。

この歴史的視点を踏まえた上で、現在の財政を巡る議論を見ていくと、その対立の根深さがより鮮明になります。

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3. 現代の対立:「責任ある積極財政」とは何か?

菅野氏が指摘した「社会構造」か「個人の心」かという明治時代に作られた対立の構図は、驚くほど形を変えずに現代の財政論争にも現れています。現在の政府と、その方針を懸念する批判側の主張を比較してみましょう。

政府の主張(積極財政派)批判側の懸念(財政規律派)
スローガン: 「責任ある積極財政」スローガン: 「財政規律の喪失」への懸念
やること: 今は借金(国債発行)をしてでも、防衛力の強化や経済成長のための大規模な投資を行う。問題点: 緊急性のない支出(約13兆円にも上る基金など)のために借金をし、年間数千億円規模の無駄な利払いを生んでいる。
理屈: 経済全体(GDP)が大きく成長すれば、借金の比率は結果的に下がるので問題ない。(PB、つまり国債発行に頼らず政策経費を税収で賄えているかを示す指標の黒字化目標も、数年単位で見れば達成可能)理屈: 経済が成長する保証はなく、先に金利が上昇して財政が破綻するリスクがある。
例え: 将来の昇給を信じて、今はローンを組んで自己投資する家計。例え: 信用が落ちて金利が上がっているのに、高金利のカードを切り続ける家計。

この政府の掲げる「責任ある積極財政」について、菅野氏は厳しい視線を向けています。

彼は、「責任ある」という言葉が単なる言葉遊び(トートロジー)になっていると批判します。なぜなら、その「責任」の具体的な定義、例えば数値目標や、目標を達成できなかった場合に誰がどう責任を取るのかといった点が全く示されていないからです。

さらに、すでに長期金利(10年物国債)が1.9%を超え、超長期金利(30年物)は3.4%を超えるなど金利が上昇していること自体が、市場(マーケット)が政権の財政運営に「NO」を突きつけている動かぬ証拠だと指摘しています。

しかし、菅野氏の議論は単なる政府批判に留まりません。彼が最も恐れているのは、この国債乱発が歴史の教訓を無視している点にあります。

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4. 菅野氏の最終警告:「国債」と「戦争」の不気味な関係

ここで重要なのは、菅野氏の単純な「積極財政派」とは言い切れない、複雑な立場です。

菅野氏は「積極財政派」ですが、現在の政府が進めるような「国債発行」には強く反対しています。

彼が賛成するのは、あくまで「人々の生活と精神を守るための財政出動」であり、「規律を失った国債乱発」は国を滅ぼす危険な道だと考えています。その根拠は、かつて大平正義元総理が学んだ歴史的教訓にあります。

それは「戦争は国債と共にやってくる」という教訓です。

  • 戦争が起きたから、仕方なく国債を発行するのではない。
  • むしろ、国債を自由に発行できるようになり、政府がお金にレバレッジを効かせられるようになると、政府が暴走しやすくなる。
  • その結果として、戦争という事態を呼び込んでしまう。

菅野氏の最も深刻な警告はここにあります。現在の市場の信認を無視した国債発行の継続は、単なる借金問題ではありません。それは、国家が制御不能な暴走(その最悪の形として戦争も含まれる)に向かうための下地を作っている行為に他ならないのです。

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結論:あなたはどちらの未来を選びますか?

これまでの議論をまとめると、「積極財政 vs 緊縮財政」の対立は、突き詰めれば「社会の問題を、政府が介入して解決すべき『構造の問題』と捉えるか、個人の努力で乗り越えるべき『心の問題』と捉えるかの思想的な対立である」と言えます。

菅野氏の歴史観から私たちが学べるのは、以下の3つの重要な視点です。

  1. 緊縮財政の歴史的影響 緊縮財政は、単にお金を節約する政策ではありません。それは社会に「自己責任」という価値観を植え付け、国民性を形作り、社会のあり方そのものを変えてしまうほどの強力な力を持っています。
  2. 国債の両義性 政府のお金(財政)は、国民の生活を守るための重要なツールです。しかし、規律を失った国債発行は、市場の反乱や国家の暴走を招く、極めて危険な引き金にもなり得る諸刃の剣なのです。
  3. 思考の促し 財政政策を選ぶことは、単に経済の未来を選ぶことではありません。それは、私たちがどのような社会に住み、目の前で起きる問題をどのように捉える人間になりたいかを選ぶことと、地続きの問題なのです。
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